街で素敵な女性をみかけたら、
彼女は「そのアクセサリー、よくお似合いですね」と
話しかけてみることにしている。
向こうも大きく頷いて笑えば、
名前も知らないふたりの、
チャーミングな世間話が始まる。

彼女の夫にニューヨーク行きの辞令が出たのは
ちょうど1年前。

ふたりが入籍する直前のことだった。
日本で秘書をしていた彼女は、渡航までのタスクに
流されるように準備をし、この街へやってきた。

突然仕事を辞めて、
ほとんど知らない土地で主婦になって。

しかし彼女は、それを嫌だと思ったことがない。
すべてのことが新しいこの場所に、
子供心にも似た好奇心を抱いている。

英会話教室で様々な国の人とともに勉強をするときも、
近所に住んでいる日本人の家族と食事をするときも、
マディソン街でおしゃれなチョコレートショップを
見ているときも。

家から一歩踏み出せば、すぐそこに上質な日常がある。

今日、このあとはどうしよう。
グッケンハイム美術館に行く?
ファーマーズマーケットもいいかも?

この街は、彼女にとってまだまだ終わりのない
トキメキに満ちている。